ALL ドビュッシー・プログラムのリサイタル
フランスを代表するピアニストの一人、パスカル・ロジェの全曲ドビュッシー・プログラムのリサイタルへ行ってきました。
神奈川芸術協会主催のアフタヌーンコンサートシリーズの一環として開かれたリサイタル。誰もが聴いたことのある名曲をトップアーティストで!というキャッチコピーのもと、クラシック音楽初心者でも楽しめる耳馴染みのある名曲をメインに構成されたプログラムによるコンサートシリーズ。
ピアノに限らず、声楽やアンサンブルなどバラエティ豊かなコンサートが予定されていて、それがすべてトップ奏者による演奏にもかかわらず通常のチケット価格よりもリーズナブル!そして週末昼間に開催されるということもあり、今回のリサイタルも2000名近く入るミューザ川崎シンフォニーホールはほぼ満席に近いような盛況ぶりでした。
■PROGRAM■
アラベスク 第1番
「版画」より "雨の庭"
「映像第1集」より "水の反映"
「映像第2集」より "金色の魚"
「前奏曲集 第1集」より "沈める寺"
「子供の領分」全6曲
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「ベルガマスク組曲」全4曲
「映像第2集」より "そして月は廃寺に落ちる"
「前奏曲集第2集」より "月の光が降り注ぐテラス"
「前奏曲集第1集」より "亜麻色の髪の乙女"
「版画」より "グラナダの夕べ"
喜びの島
誰もが一度は耳にしたことがあるドビュッシーのピアノ曲というと、やはり「月の光」と「亜麻色の髪の乙女」でしょうか。この2曲に限らずドビュッシーの曲はどれも、ピアノがいかに多彩で繊細な音色を奏でられる素晴らしい楽器なのか、その魅力を存分に引き出してくれます。
ロジェの演奏は、どんなにハーモニーが複雑になり音量が上がり動きが大きくなっても、決して『重厚』という感じではなく『広がり』をイメージさせるもので、「なるほど、フランス音楽とはこういうものか!」と改めて認識させられました。
ドビュッシーの作品は、曲名と響きがぴったりとマッチし、曲を知らなくても聴きながらイマジネーションを膨らませやすいので、確かにクラシック音楽に詳しくなくても楽しめるプログラムだと思います。ただ、正直なところ、コンサートシリーズのセット券を購入して、ドビュッシーのピアノ曲だからということに特にこだわりなく聴きに来たお客さまにとって「ALLドビュッシー・プログラム」は、睡魔に襲われず最初から最後まで鑑賞するには少し大変だったかもしれません。
「ドビュッシーの音楽の雰囲気を楽しんでもらいたいから」というロジェの希望により、曲間の拍手はしないようにとのことだったので、前半・後半のそれぞれ約45分間、ひたすらピアノの響きに漂うドビュッシー特有の水の ”ゆらぎ” や光の反射、静寂さなどに心地よさを感じ、私の周りはこっくりこっくり船をこぎ始める人が続出。後半プログラムの「そして月は廃寺に落ちる」「月の光が降り注ぐテラス」あたりにくると、背後からは気持ちよさそうな大きな寝息が……。
物騒なニュースの多い昨今、そして30℃超えの外から涼しい屋内で週末の午後のひととき、このうえなく美しいピアノの響きをBGMにしばし安らかに眠りたくなる気持ちもわかるので、いつもなら振り返りガン見して不快感をあらわにするところですが、ロジェの演奏する極上のドビュッシーに全力で耳を集中させ、どうにか最後までコンサートを楽しむことが出来ました。
アンコール曲は、サティの「ジムノペティ」1番とドビュッシー「前奏曲集 第1集」より "ミンストレル"。
ドビュッシーでお腹いっぱいになった後のサティは、実に新鮮に感じ、ドビュッシーとはまたひと味違ったフランス音楽の魅力を満喫させてくれたのでした。