Viva!ピアノライフ

All About ピアノガイド北條聡子のブログ

「エリーゼのために」連打の指使い

半年ほど前にAll Aboutに「指使いの上手な活用法」という記事をアップしましたが、それを読んで下さった方から、ベートーヴェンの「エリーゼのために」に出てくる左手の連打部分の指使いについて、以下のようなご質問を受けました。

 『楽譜どおりに「321321」という指使いで弾こうと努力をしても、自分は右手の和音をつかむことに精一杯で、いつの間にか「321」の順番が狂っていたり、同じ指でずっと弾いたりしてしまう。5小節間、同じ音を弾くのになぜ「321」とわざわざ指を替えなければいけないのか?一本指で弾いてはいけないのか?』

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私も今まで何回も「エリーゼのために」のレッスンをしてきましたが、この箇所の指使いについては必ずと言っていいほど問題になります。

連打で指を替える理由

まず、「同じ音を繰り返すのになぜわざわざ指を替える必要があるのか?」ということに関してですが、一般的に連打のパッセージは同じ指を使うよりも指を替えたほうが音の粒をコントロールしやすいのです。これは、テンポを上げて弾き比べてみるとはっきりとその違いがわかります。

一本指で弾くと、どうしても力が入ってしまうのでテンポを上げにくかったり、音の大きさや長さが不揃いになったり、ボタンを押し続けているようなニュアンスの音になってしまいがちです。

このような理由から、「エリーゼのために」のこの左手箇所に「321321」という指使いが記されているのですが、確かに「321」の指順をしっかり保ちながら右手の和音をつかみ、しかも「crescendo(だんだん大きく)」という表現までつけるとなると、難易度はグッと高くなります。

エリーゼのために」連打の指使い案

そこで私はレッスンでは「321321」にこだわらず、「212121」や、場合によっては「111111」も試してもらっています。
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エリーゼのために」は、この連打を一本指で弾いたとしても、音の粒をコントロールできないほど速いテンポで弾く曲ではありません。無理をして楽譜で記されているように指を替えることで、逆に音が凸凹してしまったり、右手に注意がいかなくなって音楽の流れが滞ってしまうよりも、一本指できれいに弾くための努力をしたほうが、ずっと時間がかからず効率よく演奏が仕上がります。

一本指で弾く際の注意点

このパッセージを一本指で弾く時の注意としては、なるべく鍵盤から指が離れないようにすること。鍵盤から離れて高い位置から続けて打鍵すると、叩いたような音になってしまい曲想を損ねる上に、上手にcrescendoもできません。

また、鍵盤から指を離さず打鍵するには、手首が軽く上下に動かせるぐらい緩んでいることが必要です。曲のクライマックス部に向けた緊張の場面ですが、肩や脇に力が入ってかたまっていないように気をつけましょう。

楽譜に書かれた指使いは絶対的なものではない

All Aboutの記事の中でも書いたように、結局のところ、どんな指使いで弾いたとしても、音楽の流れが滞らずきれいに弾きこなせていればいいのです。私自身も、学生時代に何度も先生から「なんだその指使いは!?」と呆れられた経験がありますが、それが音楽の流れを損なわず自分なりに弾きこなせていれば「楽譜どおりの指使いに直しなさい!」と言われたことはありません。そんな私は「エリーゼのために」のこのパッセージをどのような指使いで弾いているかというと…「321321」でも「111111」でもなく、ちょっとここでは書けないような相当いい加減な指使いで弾いています(笑)。

さて、あなたはこの連打をどんな指使いで弾きますか?