Viva!ピアノライフ

All About ピアノガイド北條聡子のブログ

ピアノで奏でる雨の響き <4>

武満徹:「雨の樹 素描」、「雨の樹 素描Ⅱ(オリヴィア・メシアンの追憶に)

曲目に「雨」が入っているピアノ曲、今回は「世界のタケミツ」とも評される日本を代表する作曲家、武満徹(1930-1996)の「雨の樹 素描」と「雨の樹 素描Ⅱ」をご紹介します。

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ドビュッシーやメラルティンが表現したような絶え間なく降り注ぐ雨模様ではなく、「静寂」の中に響く不協和音が、透明感のあるミステリアスな雰囲気を醸し出し、聞いている人の想像力をかきたてます。

「雨の樹 素描」は1982年、「雨の樹 素描Ⅱ」はその10年後の1992年に作られ、これが武満徹の最後のピアノ独奏曲となりました。

私事になりますが、カナダで演奏活動をしていた時に、コンサートの主催者から日本人作曲家の作品をプログラムに入れて欲しいと頼まれたことがありました。今ならインターネットでどのような曲があるかすぐに調べられ、楽譜も世界中どこからでも注文できますが、当時はパソコンもないうえ、私はコンサートで弾けるような日本人作曲家のピアノ曲などひとつも知りません。仕方なく、音楽には全然詳しくない母親に、すぐに銀座のヤマハへ行って適当に日本人作曲家のピアノ譜を何冊か送ってと頼んだのでした。

そして送られてきた数冊の楽譜の中には、「雨の樹 素描」も。今ならYouTubeですぐに楽譜と照らし合わせながらどのような曲か聴くことができますが、その時は自分で譜を読み、出来上がりの音の感じを想像して判断するしかありません。

申し訳ないことに、「雨の樹 素描」は真っ先に却下!譜読みを始めたものの、何が何だかチンプンカンプン!当時の私には、「不協和音だらけで気持ち悪い」という印象しかありませんでした。それ以来、楽譜は本棚にしまわれたまま一度も開いたことがありません。

でも、今回のことをきっかけに「雨の樹 素描」を聴いてみると、以前は不快に感じた不協和音がキラキラと美しくとても魅力的に感じ、武満の世界にちょっと足を踏み入れてみようかな?という気持ちになりました。あの臨時記号だらけの譜読みには苦労しそうですが!?

現代曲は、ショパンドビュッシーのように誰が聞いても「美しい」と思える類の音楽とは違い、苦手という人が多いですが、イマジネーションをふくらませながら是非、武満徹の「雨の樹 素描」を聞いてみてください。

 

【雨の樹 素描】ピアノ:樋口あゆ子 PTNA『ピアノ曲事典』より転載



【雨の樹 素描Ⅱ ~オリヴィエ・メシアンの追憶に ~】   
ピアノ:西川潤子 PTNA『ピアノ曲事典』より転載