アンジェラ・ヒューイットのリサイタル
先日、カナダ人ピアニスト、アンジェラ・ヒューイットのリサイタルを聴いてきました。
アンジェラ・ヒューイットは、現代最高のバッハ弾きのひとりとも評され、ヨーロッパを中心に国際的に活躍するピアニストです。この日のプログラムは、スカルラッティのソナタ8曲とスペイン音楽。
【プログラム】
スカルラッティ:ソナタ K9, K159, K87, K29
グラナドス:「12のスペイン舞曲集」より”ビリャネスカ”、”アンダルーサ”、”ホタ”、
グラナドス:「ゴイェスカス」より”嘆き、またはマハと夜泣き鶯”、”わら人形”
~休憩~
スカルラッティ:ソナタ K113, K430, K8, K13
アルベニス:「スペイン舞曲」より”セビーリャ”、”アストゥリアス”、”カスティーリャ”
ファリャ:ベティカ幻想曲
アンコールでは、スカルラッティのソナタとドビュッシーの「月の光」が演奏されました。(こちらの動画は、当日のコンサートのものではありません)
Claude Debussy "Clair de lune" by Angela Hewitt ...
彼女の演奏は、YouTubeにもたくさんアップされているので愛聴していますが、生で聴くのは初めてでした。
アンジェラ・ヒューイットは、自分が愛用するFAZIOLIのピアノを運び入れることでも有名ですが、この日も銀座の王子ホールのステージにはゴージャスなFAZIOLIが!
王子ホールは315席の小さいホールなので、チケット販売初日の夕方には残り2~3枚しかない状況。私の席は、壁の隣の一番端っこでしたが、これがラッキーなことに両手の動きやペダルがはっきり見えるちょうど良い角度と距離で、わたし的には返って中央の席より良かったような気がします。
彼女のスカルラッティは、音のひとつひとつが完璧にコントロールされていて、絶対的な安定感があります。奇をてらった表現をするのではなく、至ってオーソドックスなスタイルの中に、バロック音楽のもつ端正かつ高貴な響きが満ちていてとても心地よかったです。
グラナドスの「12のスペイン舞曲集」は、楽譜に書かれた音を弾くこと自体はさほど難しくありませんが(中級レベル)、この人の手にかかると、あのシンプルな譜面からこんな音楽ができるのか!と思うほど、音が立体感を帯び、色彩豊かな風景が目に浮かんできます。
「嘆き、またはマハと夜鳴き鶯」は、哀愁漂うとても美しい曲で、この日私が一番楽しみにしていた曲。その期待を裏切らず、それはそれは美しい演奏でした…が、最後の一番の聞かせ場、静寂な空気の中に響く鶯の鳴き声を模したパッセージで信じられないことが!
シーンと静まり返ったホールに響く繊細な鶯の鳴き声……誰もがその美しさに酔いしれている中、突然男性の大きな、しかも何かが混ざっているような汚い咳が!!!
わざとしたわけでないのは、もちろんわかります。ご本人も、こらえてこらえてこらえて、でも我慢出来ずにしてしまったのだと思いますが、あまりにタイミングが悪すぎる!せめて何かで口を覆ってくれていたら、あんなに派手に鳴り響かなかったでしょうに!アンジェラも、思わず顔の表情を変えていたのを私は見逃しませんでした。…というわけで、これはたぶん私の記憶に一生残る、美しい音楽が台無しにされたガッカリ体験となってしまいました。
スペイン音楽は難しい!
スペイン音楽は、テンポの動かし方、間の取り方、メロディーの歌い方が独特で非常に難しく、聴くのは好きですが弾くのはどうも苦手です。彼女の演奏は、私の好みからいうと少し強引というか、雰囲気が激変しすぎる感がありましたが、それはそれで情熱的で華やかな演奏になるので、聴いていて気持ちよかったです。ただし、これを下手に真似すると、ただの乱暴で闘争的な響きになるので危険です。
ここで書くのも気が引けますが、実はアンジェラ・ヒューイットを育てたフランス人ピアニスト、ジャン・ポール・セヴィラは、私も大学3年の時から約7年間お世話になった恩師です。習っていた年代が違うので、実際に彼女に会ったことはありませんが、先生からよく彼女の話を聞かされ、また比較もされました。
今回のプログラムに入っているスペイン音楽も、レッスンの課題として与えられたことがありますが、私には、楽譜に書かれている音は弾けても、先生が求める表現には達することができない。「アンジェラは、こういうの得意なんだよ。やはり日本人には難しいのかな~。」と言われ凹んだことを覚えています。
「日本人だから難しい」のか、私個人の問題なのか…?ずっと悩んでいましたが、彼女の演奏を聴いていると、確かに、型にハマり律儀な日本人気質には越えられない感性の壁があるように感じました。う~ん…スペイン音楽は難しい!!
練習のヒント
アンジェラ・ヒューイットは、マスター・クラス(公開レッスン)にも力を入れており、YouTubeにもその様子がアップされています。特にバッハについては参考になるレクチャーがたくさんアップされています。
彼女のレッスンスタイルやコメントは、セヴィラ先生と共通していると感じるところがたくさんあります。アンジェラのレベルには到底及びませんが、私も自分が先生から教わったことをできるだけ教室の皆さんに伝えていきたいと思います。
YouTubeには、効果的な練習のヒントなど、参考になるレクチャーもアップされていますので、ご興味のあるかたは是非ご覧になってみて下さい(ただし英語です)。
■「暗譜」について
実際に人前で暗譜で弾くかどうかは別として、暗譜で弾けるようにすることには意味がある。一日で全部暗譜しようとするのではなく、「今日は2段だけ」というように小分けにして覚える。両手ばかりでなく、片手ずつ暗譜で弾けるようにすることも大切!
Memorising tips from Angela Hewitt - YouTube