Viva!ピアノライフ

All About ピアノガイド北條聡子のブログ

「音楽の科学」への期待

「音楽の科学」で東大へ 高3ピアニスト 工学部に推薦合格』
これは昨日(3月18日)、読売新聞の地域版(神奈川)に載った記事のタイトル。「音楽の科学」という見慣れない言葉に興味を引かれて記事を読んでみました。最初に私が想像したのは、音が伝わるしくみや周波数云々といった理論尽くしで数字のデータとにらめっこするような内容。でもこの記事で紹介されている「音楽の科学」は、実際に演奏することと深く関わりをもち、将来、ピアノを弾くすべての人に大きな利益をもたらす可能性を秘めた期待すべき内容でした。

 「音楽の科学」で東大工学部に推薦合格を果たしたのは、神奈川県立厚木高校3年生の村松海渡さん(18)。全日本ジュニアクラシック音楽コンクール・ピアノ高校生部門で1位に輝いた経歴をもつピアニストです。音楽系大学への進学を考えていた彼が、ピアノの練習によって腕を痛めたことをきっかけに、音楽にもスポーツ科学のような研究が成されるべきでは?と思うようになり、自らがその研究を究めようと掲げたテーマが「演奏時の体の動きを解明し、故障を防ぐとともに美しい音色を究める」。その発想と姿勢が高く評価され、初の東大推薦入試合格へと結びついたのだそうです。

脱力はピアニストの永遠の課題

プロ・アマ、レベルを問わず、ピアノの練習で腕や手首を痛めた経験のある人は少なくないはず。私も学生時代、オクターヴが連続する速いパッセージの多い曲や、フォルテで弾く箇所の多い曲ではよく腕を痛め、ひどい時には試験をパスして追試を受けなければならなくなったこともありました。整形外科へ行っても「ピアノの練習を思い切ってしばらく休むしかない」と言われるだけで、具体的な解決策は示されず。痛みが引いて練習を再開すれば、また痛みが戻ってくる……ということを繰り返していました。痛みの原因が、腕に余計な力が入って正しい動かし方をしていないからだとわかっていても、どこをどのようにして力を抜けばいいのかわからず悩んだものです。

力を抜く(=脱力)は、ピアノを弾く人にとって大きな課題!レッスンをしていても指摘する頻度が一番高いポイントです。難しいのは、脱力して弾けている人の動きを真似たところで、実際に力が抜けているとは限らないということ。極端な話、力んで弾いているように見えても、腕を痛めることなく美しい音で弾く人もいますし、一見適切に脱力して弾いているように見えても、音がかたく、頻繁に腕を痛めてしまう人もいます。脱力は感覚的なものなので、試行錯誤しながら自分自身で会得していくしかありません。その”試行錯誤”の大きな助けとなるのが、これから村松さんが取り組む研究なのではと思います。

腕を痛めないためだけでなく美しい音を奏でるためにも、脱力はピアニストがマスターしなければならない大切なポイント!村松さんも、脱力の重要性を説いています。ピアノ演奏特有の腕の動かし方や筋肉の使い方を、理屈だけでなく身をもって知っている村松さん。その村松さんが、楽器の演奏と直接関係ない工学部という分野で研究に取り組むことによって、今までになかった新しい観点からピアニストの正しい体の使い方を解き明かし、将来ピアノを弾く人たちの大きな助けとなることを期待したいと思います。

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