シューマンのこだわり
先日、シューマンの「アラベスク」のレッスンをしていて、声部の絡みとタイの多さに思わず生徒さんと「シューマンが精神を病んでいたのがわかる気がする」と苦笑いをしてしまいました。前の響きを執拗にタイで引っ張り…また引っ張り…重ねていくシューマンの特徴的な書法は、たいていの人は譜読みの段階でとても苦労します。
「この指は抑えたままで、この指は離して~」「違う違う!その指は上げるけれど、こっちは上げないで~」という具合に、レッスンでもどうしても指の上げ下げの注意が多くなってしまいがち。だんだん私も、生徒さんの粗探しをして意地悪しているような気分になってしまうのです。
でも、これを疎かにして、タイで延ばしておくべき音を適当に離してしまったり、声部の絡みを無視してどの音も同じ大きさで無造作に弾いてしまっては、絶対にシューマンを美しく演奏することは出来ません!
レッスンで一番人気のシューマンの曲といえば「トロイメライ」。そしてこの曲もまた「アラベスク」と同じ特徴がみられます。演奏だけ聞いていると、ゆったりとしたテンポで音の数も少なく簡単そうなのですが、楽譜はシンプルどころか4声が絡んでいて複雑で、シューマンが記したとおりの響きを忠実に弾こうと思ったら実はそんなに簡単ではありません!
「トロイメライ」をレッスンにもっていらした生徒さんは、たいてい「こんなに難しい曲だったのですね!」と驚き、そこからが『シューマン好き派』と『苦手派』の分かれるところ。
譜読みで苦労は多くても、シューマンの曲はどれもとてもピアニスティックで詩的。ショパンやリストのような華やかさはありませんが、弾きこむとじわじわとその良さがわかってきます。
弾かれる機会は少ないですが「色とりどりの小品」や「アルバムの綴り」などにも、中級レベルから取り組める素敵な曲がたくさんおさめられているので、是非一度楽譜を見ながら聴いてみてください。
■シューマン「色とりどりの小品」Op.99 ピアノ:寺田まり
(PTNA公式サイトより)